水木しげるの古代出雲/水木しげる
せんなん堂です。
水木しげる(1922-2015)は、言わずと知れた有名漫画家でした。
独特なキャラクターが印象的ですが、2015年、残念ながら亡くなりました。
『ゲゲゲの鬼太郎』に代表されるように、水木漫画は、妖怪などが出てくる幻想的な作品が多かった印象を持っておりました。
正直、私が子供のころは、水木漫画=怖い、気持ち悪い漫画、と思っていました。
しかし、大人になってから、水木が、戦時中徴兵され、南方で戦い、そこで左腕を失うなど半生を知り、彼の戦地での壮絶な体験をつづった作品などを読んだりもしました。
絵や漫画を描くのが好きな普通の青年が、国家の始めた戦争にかりだされ、悲惨な戦場での非日常的な体験をしてしまったことが、彼の考え方、作風にも影響しているのかな、と思いました。
今回紹介するのは、ちょっと対象が違っています。
話は、古代出雲。
日本最古の歴史書『古事記』、現存する日本最古の正史『日本書紀』、特に、”出雲の国譲り”神話を中心に、漫画化しています。
日本書紀は正史で、正史とは、国家によって編纂された公式な歴史書です。
一方で、正史は、権力者が自分の正統性を示すために都合よく編纂したものであり、王朝が何度も交代している中国などはそうだったといわれます。
日本書紀は、天武天皇*1が編纂を命じたとされていますので、当然、天皇家が日本を統治する正統性を直接的に示す内容のはずです。
そのような前提があって、なぜ、”出雲の国譲り”という話があるのか、それも結構な分量で記述がなされているのか。
”出雲の国譲り”は、正史に記載しておかねばならないほど、国の統治の正統性において重要な、無視することのできない歴史的事件の象徴、ということでしょうか。
その”出雲の国譲り”神話ですが、出雲にオオクニヌシが治める栄えた国家があったのだが、その後日本を統治する天孫族(天皇家)が話し合いにより出雲の国を譲り受けた、というのが大筋の内容です。
神話だから信憑性が低いとか、歴史ではないともいわれますが、何もないところからこのような話が沸き上がることはなく、出雲地方で伝えられていた話なのだから、実際に起こった出来事を象徴しているのではないか、といわれています。
その実際の出来事とは、一体どのようなものであったのか?
本書は、この疑問に対して、水木なりの解釈が書かれています。
水木がこの漫画を描こうと思ったきっかけが、本の後半に描かれています。
ある日、水木の枕元に”古代出雲の青年の霊”が現れ、”出雲の国譲り”の真実を見せるから、これを世の中に知らしめて欲しい、と懇願します。
いかにも、水木らしい。