せんなん堂主人 日々の思うこと

読書、音楽、TV映画鑑賞から感じたこと、思うこと

天下を計る/岩井三四二

せんなん堂です。

 

また戦国時代の人物を取り上げた歴史小説を取り上げます。

 

「天下を計る」は、豊臣政権下の五奉行の一人、長束正家(なつか まさいえ)の物語です。

 

 なんとも渋いところを主人公にした感がありますが、戦で戦国の世を生き抜くのではない男の生き方に興味をひかれました。

長束正家は、丹羽長秀の家臣であったが、算術の才覚を見込んだ羽柴秀吉が、自分の会計を預かる家臣として重用します。
そこから、本来出世意欲のなかった男が、その意に反して大出世していきます。
 
出世し、これまで想像もできなかったことを知っていきます。
そして、人生の目標を、世の中のものをすべて勘定する、国中の大名の資産やら、土地やら石高やらを数字に現していく、すなわち「天下を計る」こととします。
 
秀吉のそばで、権力にまつわる理不尽なことを多く見ることになります。
正室が本多忠勝の妹であったことから、忠勝の主君である徳川家康とのかかわりもあります。
物語の後半部、秀吉の死から関ケ原の戦いまでの、狸親父家康との心理戦も読みどころです。
 
結局、家康の勢力を止めることはできず、史実では歴史の舞台から去っていくのですが、物語の中で、正家は、次のように後悔します。
 『自分の思う筋を通すには、もっと出世しておかねばならなかった』
 
これ、会社員としては、よく理解できます。
出世なんて、俺には関係ないぜ!と、カッコつけることもできるけど、
仕事を通じて、自分が成し遂げたいことを、本当にやろうと思うと、偉くならないとできないのです。
 
とはいっても、誰でもそうできるわけではない。
だけど、目指すぐらいはしないと、というところでしょうか。
 
この小説では、秀吉の弟、豊臣秀長の描き方が斬新です。
一般的な秀長像は、秀吉の天下取りや、その後の豊臣政権を陰で支える人格者とされることが多いと思いますが、著者は、兄の威を借り、蓄財に走るずるい男に描いています。
 
出世欲なく、秀吉のそばでひたすら勘定を追求した正家と、権力に近づき自らの出世や蓄財にその権力を利用する者どもとの物語に引き込まれ、読み応えのある小説でした。