せんなん堂主人 日々の思うこと

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家康、江戸を建てる/門井慶喜

せんなん堂です。

 

徳川家康にまつわる歴史小説を紹介します。

 

徳川家康は、ご承知の通り、江戸幕府260年の礎を築いた人物です。

彼が天下を手中にする以前の1590年、豊臣秀吉小田原征伐*1を行い、北条氏を滅亡させます。

家康は秀吉から北条氏旧領への転封を言い渡されます。

 

 関八州への転封で大加増とはなりましたが、三河などコツコツと整備していった土地を召し上げられ、代わりに低湿地ばかりの貧しい土地を押し付けられ、家康の家臣たちは、この転封に反対します。

しかし、家康は受け入れます。

しかも、北条氏の居城であった小田原ではなく、湿地帯ばかりの江戸に居を構えるとしたのです。

 

家康に、江戸は手を加えれば、京、大坂に肩を並べるほどの大きく栄える街になる、という先見の明があったのか、

それとも、時の権力者に従わざるを得ず(秀吉が江戸城を居城にするよう命じた、とか)、絶望的な状況で江戸に入らなければならない背水の陣的な状況であったのか、

真実はわかりませんが、とにかく、江戸の街改造プロジェクトに着手するのです。

 

この本は、家康中心の話、つまり政治的な話ではなく、インフラ整備に心血を注いだ家臣、技術者たちを主人公とした短編集であり、その着眼点が面白いと思います。

利根川東遷事業*2、市中の飲料水事業、江戸城天守閣創建事業など、どれも読みごたえがある物語です。

 

壮大な河川、水道、城建築のインフラ事業も感動する物語なのですが、私は、通貨制度確立事業の物語が気にいっています。

 

通貨制度は権力者が権力を握るうえで重要な基盤です。

自らの意思で天下に出回るお金の価値を決めることができるというのは、とても大きな力になります。

 

この話は、天下人豊臣秀吉が、日本国内の通貨をコントロールしている時期から始まります。

家康は、京から離れた江戸の地で、密かに独自の関東ローカルな通貨制度確立をもくろみ、彫金師、簡単にいうと大判を作成し、その価値を保証する役割を果たしていた後藤家にいた職人橋本庄三郎(後の後藤庄三郎光次)を京都より下向させます。

かなり簡素に書きましたが、物語では、秀吉や京の後藤家に悟られないように、十分に気を配りながら、ことを進めていく様が描かれています。

その過程での、家康の関東へ押し込めた秀吉に対する意地、庄三郎も、自分を認めない後藤家に対する意地が描かれます。

当然、権威がそれをかざしていろいろと妨害してきますが、それらに耐え、うまくかわしながら、慎重に関東ローカルで通用する通貨制度を確立していきます。

それはなぜか?

政治的には秀吉の臣下に甘んじている家康が、静かに経済戦争を仕掛け、勝利するため。

 

 そして、クライマックス、関ケ原の戦い後の、庄三郎がいち早く京都に向かいます。

あることをするため、そして経済の支配者が変わる・・・。

 

なかなか読み応えのある歴史小説でした。